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ENSOU / 円相


 

身心脱落の瞑想の元に、一筆で描かれた円相。

禮生の代表作です。

 

作品そのものに、特別な意味はありません。

 

作品を観る人に対して、何も求めていません。

 

夜空に浮かぶ月を眺めるようにご覧ください。

 

 

とある有名な詩人は、こう詠んでいます…

 

”動く水をただ 静かにすればよい

そうすれば

あなたという存在の水面に 月と太陽が映し出される”

 

 

円と対峙し、啓(ひら)かれる、ひとつの可能性。
 
 精神統一の元に描かれる一筆は、「今、ここ」の象徴です。このとき、墨汁や染料として筆に含まれている多量の水は、描き手の支配から離れ、それ自体が意図を持つかのように流れてゆき、紙の上で形を留めます。
 その筆跡は、さながら、「意図なき今」が、味わい深い、幽玄な瞬間をもたらすことを示してくれます。
  
 水が、墨が、一つの円 (囲む線と、囲まれた領域)を象ったとき…人間に備わっている心理的な認知システムを刺激する存在になります。円に正対して鑑賞すれば、その筆跡に囲まれた丸い空間は、観る人の内面を映し出す覗き扉となるでしょう。
  
 円と対峙する―この無意味に見える行動に、多くの方は戸惑いを覚えることでしょう。しかしながら、心地良いと感じられる肉筆に、期待や意義を捨てて身を投じた人は、なぜだか自分自身が正しく調整されたり、行くべき方向へと意識が向かうことを感じるものです。これが、禅の智慧、マインドフルネスの世界です。